システムエンジニア

今日のYahoo!ニュースで話題になっているのが、防衛装備庁の調査研究を2020年12月に三菱電機が77円という低価格で落札したこと。

Yahoo!ニュース【時事通信】三菱電機また低額落札 調査研究「77円」 防衛省

航空自衛隊の作戦シミュレーション装置の更新のための調査研究事業ですが、いくら三菱電機の社内に既にノウハウがあったとしても、このプロジェクトの中では要求元の防衛装備庁との内容の確認や説明報告などの顧客対応の時間は絶対掛かります。また、システムエンジニア一人では回せないのでプロジェクトマネージャー、プロジェクトリーダー、各技術領域の担当など、複数人で行うプロジェクトなのでそれぞれの作業工数や顧客向けの資料作成の工数、社内での品質保証などの部署の工数も考えたら、50時間以上は掛かるでしょうし、例えば単価が1時間8000円だとしても40万円は少なくとも掛かりますよね。また成果物を紙で提出するとなると、紙の代金、印刷代、ファイルなどもあるので、これだけでも500円は超えますよね。

調査研究の内容によっては、役務が長期間のプロジェクトだったり、海外の技術動向調査も含まれていればさらに海外出張もしないといけないので、さらに費用が掛かりますね。

なのに三菱電機はなぜわずか77円で落札したのでしょうか。

私自身も前職で経験があるので事情は分かるつもりですが、これは日本の特に安全保障関連の省庁のシステム開発ではびこるベンダーロックインのためなんですよね。調査研究は新しいシステムを導入するための参考にするため、現在の最先端の技術の調査や、海外の動向調査、そして現在のシステムではどんな機能があって何が足りていないか、などを分析します。今回の三菱電機が77円で落札した調査研究も空自の作戦シミュレーション装置のリプレースのための調査研究ですね。

こうした調査研究のアウトプットを元に次期システムの仕様が作られるのですが、その仕様書に自社にとって都合の良い文言が入るように仕掛けるのがこうした調査研究を受注する目的でしょう。たとえば、現在の技術ではこういうのが最先端で、それはこの会社が特許や製品を持っている、だからシステムに適用するにはこの会社のこの製品じゃないとできない、みたいに。あるいは海外製の技術が必要不可欠だったとしたら、日本で販売する独占販売権を取得しておき、その日本の会社を通さないと買えないようにしておく、とか。

他にもシステム担当の顧客(この世界では「官側」と呼びます)との関係構築もあるでしょうね。調査研究で官側と関係を深めておき、そろそろ次期システムの仕様書を作らないといけなくなったときに「うちでドラフトを作りましょうか」と提案して、そこには自社でしかできないような文言にしておきます。現在では民間に仕様書のドラフトを作らせるのは公では認められてはいませんが、数年で人事異動してしまうシステム担当官だと、仕様書作成のノウハウや知識があまり無いこともあるので、現行のシステムを知っている民間に仕様書を作ってもらうほうが早いし確実ではあるんですよね。

安全保障関連のシステムは少なくとも数千万円から数億円するのも多いですし、10億円以上するのもあります。調査研究をタダ同然で受注して赤字受注になっても、その後の本丸である新規システムの開発やリプレース(この世界では「換装」と言います)を取りに行く。そういうビジネス形態になっているんです。

私も前職にいたとき、自社として是が非でも取りたい調査研究の入札で1万円で落札したことがありました。言い分としては「調査研究の項目は既に自社にノウハウがあるので、納品物の報告書の印刷代だけ掛かります」というものでした。

もちろん、赤字での受注です。こういう場合、前職では提案活動のための「プリセールス」の予算をプロジェクト工数に当てて手弁当でやっていましたが、この予算も多いわけではないので、残業をいくらしても工数を全てチャージすることができず、結局プロジェクトメンバーが辛いだけ。会社の役職を持つ偉い人たちから「赤字で取ったけど、本丸はちゃんと取れるんだよな」とプレッシャーを掛けられ、精神的にもキツかっただけです。

結局、私も数年後に転職しましたし、私の前後の世代も毎年1人、2人と転職してしまい、今では中堅クラスがだいぶ減ってしまったし、部も解体されて他の部に統合されてしまったという話を聞いています。日本ならではのSIerの負の慣習から脱却しないと、会社自体の戦力も下がってしまう、そう感じた今日のニュースでした。



Categories:

Tags:

No responses yet

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

スポンサーリンク
カテゴリー